利用形態・事例

地中熱利用ヒートポンプ

ヒートポンプとは

熱は高いところから低いところへ移動します。ところがヒートポンプは逆に、熱を低いところから高いところに移動させます。
ヒートポンプという言葉を分解すると「ヒート = 熱」を「ポンプ = 汲み上げる」する装置であることが分かります。
一般に言うポンプは、電気や人力などの動力を用いて水を低いところから高いところに汲み上げる装置のことを言います。ヒートポンプは水の代わりに「熱」を汲み上げます。
家庭のエアコンや冷蔵庫は一般にこの技術を用いて空気との間で熱をやり取りしています(空気熱ヒートポンプといいます)。地中熱利用ヒートポンプは地中との間で熱交換を行う点が異なりますが、技術的には同じものです。熱交換を行ういわゆる室外機が、空気熱を利用するか地中熱を利用するかの違いとなります。

ヒートポンプとは
地中熱利用促進協会資料より

夏の冷房時はヒートポンプの室内機を冷やして室内の熱を集めてきて、それを屋外に捨てるわけですが、その時、気温35℃の暑い屋外に熱を捨てようと思うと、それよりも室外機の温度を上げないといけないので、室外機は60℃くらいまで熱くする必要があります。
しかし、この熱を捨てるところを地中にすると、屋外は35℃であっても、地中は年中変動が小さく15℃くらいですので、室外機の温度はそれほど上げなくてもよくなり、せいぜい40℃くらいで熱の移動をさせることができるようになります。
この60℃と40℃の20℃の差が圧縮機(コンプレッサー)の仕事の差になって、低い温度でよい地中熱の方が電力を使わずに、省エネルギーな運転となるわけです。
暖房時は、逆に室外機は熱を集める役割になりますので0℃くらいの外気から熱を集めるより、15℃の地中から集めた方が熱を集めやすくなり、ヒートポンプが楽な運転をすることができるようになります。

このように空気熱との温度差を利用することで省エネルギーな冷暖房運転が可能となることが、地中熱ヒートポンプの最大のメリットになります。

主な地中熱ヒートポンプメーカー

地中熱ヒートポンプ
コロナ
地中熱ヒートポンプ
サンポット
地中熱ヒートポンプ
ゼネラルヒートポンプ工業
地中熱ヒートポンプ
ディンプレックス
地中熱ヒートポンプ
JFE

地中熱利用ヒートポンプシステム

地中熱利用ヒートポンプシステムは地中との熱のやり取りの方法によって、クローズドループ方式とオープンループ方式に分けられています。

クローズドループ方式

クローズドループ方式
環境省による

一般に利用されているクローズドループ方式は「Uチューブ」と呼ばれるU字型の採放熱パイプを地中に挿入し、中に水や不凍液を満たして循環し、地中熱交換器を設けます。
地中熱交換器を挿入するには、ボーリングマシンで口径150㎜~200㎜程度、深度50~100m程度のボアホールを施工するのが一般的ですが、ボアホールの掘削に施工費が嵩むのが難点です。
そこで新たに掘削しなくても済むように建物の新築の際、基礎杭と組み合わせて埋設する工法や、10m程度の住宅用基礎地盤柱状改良時に数本に分けて埋設する工法および既存の井戸を利用することもあります。
また、水平埋設型では敷地を1.5mほど掘り下げ、そこに採放熱管を設置する方法で、通常の土木工事で行えるため、施工コストを抑えることができますが、必要な熱量を確保するにはかなり広い面積が必要になります。
オープンループ方式に比べて熱交換の効率は低いものの、地下水を揚水しないため、揚水規制のある地域でも導入可能です。

クローズドループ方式
クローズドループ方式
クローズドループ方式

オープンループ方式

オープンループ方式
環境省による

オープンループ方式は熱交換する循環水に地下水を利用する方式です。
地下水も地中熱と同じように1年を通じて温度変化が少なく、比熱の高い地下水が熱を運ぶため、熱交換能力も高く効率的となります。
このオープンループ方式も揚水後の地下水の処理法により、熱交換後の地下水を再び地中に戻す還元方式と、そのまま地表で放流する放流方式に分けられます。
オープンループ方式は定期的なメンテナンスが必要であり、水質によっては追加設備が必要となる場合があります。 また、地下水の揚水は地盤沈下の原因になるため、自治体の条例等で汲み上げ規制されている地域もありますので、注意が必要です。

クローズドループ方式とオープンループ方式の特徴

項 目 クローズドループ方式 オープンループ方式
地中熱交換器コスト 高い(ボアホール費用が初期コストの 1/2~1/3) 低い(初期費用対ではクローズドの 1/5~1/10)
施工場所 全国どこでも可能(水平方式は広い用地を要する) 地下水が豊富な扇状地、山麓、平野部、盆地等に適している。
冷暖房面積 施工面積に比例して地中熱熱交換器は多く必要 地下水揚水井の施工数は少なくて済む
条例・通達規制 一般に考慮不要 自治体の地下水規制や放流条件に留意
地下水水質 考慮不要 水質によりフィルターや熱交換器を要する
メンテナンス ほぼメンテナンスフリー(機械はメーカーによる) 地下水不純物による目詰まり、配管障害などに留意(定期点検を要す)
概算費用(出力kwあたり) 25~60万円程度 10~30万円程度

地中熱利用ヒートポンプシステムのメリット

メリット1-どこでも使えます

地下水を揚水するオープンループ方式の場合は、地下水揚水規制条例などにより設置不可能な地域がありますが、クローズドループ方式の場合はそのような規制を受けませんので、基本的にボアホールを設置できる施工条件が整っていれば、どこでも地中熱を利用することができます。
また、利用用途も空調、給湯、融雪など熱を利用する様々な分野で使用が可能です。

メリット2-節電と地球温暖化防止効果(高い省エネ性能)

地中熱ヒートポンプは、季節や天候などに左右されないほぼ安定している地中熱を利用することから、空気を熱源にするエアコン(空気熱ヒートポンプ)に比べて効率の良い運転ができます。このため、少ない電力で同じ温度の熱を作り出せるので、節電ができます。さらに、この節電は発電時に生じているCO2排出量の削減につながり、地球温暖化防止にも貢献することになります。
川崎市の南河原子供文化センターでの比較では、暖房時に19%、冷房時にはそれより大きい39%もの消費電力の削減が確認されています。

節電と地球温暖化防止効果(高い省エネ性能)

同じく、東京都心の小規模オフィスビルでの比較では、年間49%の空調電力消費量の削減となっており、高い省エネ性能が示されています。
この削減割合は、24時間稼働する病院や福祉施設、警察消防、商業施設(コンビニやスーパー等)ではさらに大きくなります。
節電は電気使用量を節約できる他に、発電するときの燃料消費によるCO2排出を抑えることにつながります。

メリット3-ヒートアイランド現象の緩和

空気を熱源とする一般的なエアコンと地中熱ヒートポンプの大きな違いは、空気熱を使うか地中熱を使うかですが、それは、排熱を外気に放出するか、地中に放熱するかの違いも生じます。
一般的な空気熱エアコンの室外機は大きなファンがあり、ここから夏は外気より高い温度の熱風が、冬は温度の低い冷風が出てきます。特に夏の暑い排熱は、熱帯夜やヒートアイランド現象の一因と言われていますので、熱を地中に排熱すれば、その緩和につながることになります。

ヒートアイランド現象の緩和
冷房運転時の室外機のサーモグラフィー写真(外気温度35℃) .コロナ資料による

メリット4-小型・高性能ヒートポンプユニット

地中熱を熱交換した水冷ヒートポンプであるので、小型・高性能化に向いているといわれています。室外機のファンもなく、運転音も小さく、空気熱源ヒートポンプのような低温時のデフロスト運転(室外機の霜除去のための運転)がないので、静かでより効率的な運転が行われます。
このようにヒートポンプユニットからの排気がないこと、運転音が静かなことから屋内に設置することも可能で、風雨や塩害から機械を守れます。

メリット5-長寿命・メンテナンスの少ないシステム

地中熱利用の形態にもよりますが、地中熱交換器の耐用年数(50年以上といわれています)までの持続的利用が可能です。 ただし、ヒートポンプ自体は機械ですので、その寿命はエアコンより若干長い程度といわれています。 なお、エアコンの法定耐用年数は6~15年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令では建物付属設備として22kw以下は13年、22kw以上は15年としています。 器具および備品としては6年としている)とされています。